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高松高等裁判所 平成8年(ネ)133号 判決 1996年11月29日

控訴人

実正寺

右代表者代表役員

安沢淳栄

右訴訟代理人弁護士

中村詩朗

小長井良浩

浦功

菊池逸雄

被控訴人

永井静子

右訴訟代理人弁護士

清見勝利

成田吉道

小川治彦

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要及び証拠関係

事案の概要は、原判決の「事実及び理由」欄の第二の記載のとおりであり、証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三当裁判所の判断

一  被控訴人が労働基準法上の労働者といえるかどうかについて

以下のとおり、補正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第三の一ないし五に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一四頁一行目の「各人の」の前に「控訴人の状況に応じて控訴人の代表者が」を加え、同六行目の「<証拠略>」を「<証拠略>」と改める。

2  同一五頁一〇行目の「二月の」の次に「被控訴人の勤務時間について、控訴人の指示による拘束時間として午前八時四五分から勤務していたことまでは認められないから、」を加える。

3  同一七頁四行目の「そうすると」から同五行目末尾までを「退勤時間についても、控訴人代表者が、基本として午後五時までと被控訴人に説明していた(控訴人代表者本人)ことからみて、やはり定められた退勤時間であると認めるのが相当である。」と改め、同八行目の「受付」の次に「及び控訴人代表者の指示によるその日程の調整」を、同一一行目の「閉門や開門、」の次に「電話の応対のほか、防火、防犯のため」を加える。

4  同一八頁二行目の「起床していたこと」を「起床していたが、この間に電話がかかってくることもあり、宿直の際に被控訴人が自由に外出することはできなかったこと」と改める。

5  同一九頁三行目の「いわゆる」の前に「実際にパートとして他の寺院に勤務した場合に時給が五〇〇円であった例(<証拠略>)からみても、」を、同四行目末尾に「支給日が一定ではなかったとしても、毎月中旬から月末にかけて支給されていた(<証拠略>)ことからすれば、単なるお礼であるということはできない。」を、同八行目の「<証拠略>」の次に「<証拠略>」を、それぞれ加え、同八行目末尾に改行して「また、右に引用認定した被控訴人の業務内容に照らせば、各種行事の際の早出や残業、宿直は、控訴人の指揮監督のもとで行われた業務として、労基法上の賃金支払いの対象となる労働時間であると認めるのが相当である。」を加える。

6  同二〇頁二行目の「これらは」から同四行目の「みられるところである」までを「これらの事情は、規模の小さな個人的経営の事業にあっては往々にしてみられるところであり、被控訴人が控訴人代表者の指揮監督のもとに、時間的にも場所的にも拘束されて業務を行っていたことが認められるのである」と改める。

7  同二一頁二行目の「被告において、」を削除し、同三行目の「定めがない」から同四行目の末尾までを「定めについてはこれを認めるに足りる証拠がなく(変形労働時間制の採用について、控訴人の場合は就業規則の定めによらないことが許される(労基法八九条)にしても、労基法施行規則一二条の解釈として、就業規則に準じたものを定めて労働者に周知させなくてはならないと解すべきところ、前記引用認定のとおり、出勤日や宿直日については、毎月末ころ翌月分を相談の上決めていたというに過ぎないから、このことによって右就業規則に準じたものを定めて周知したと認めるのは困難である)、勤務の実態として、宿直のときにはかかってくる電話の応対という業務もあり、寺院から自由に外出するということは許されないのであるから、拘束時間として時間外労働、深夜労働に該当するというべきであり、右労基法は労働者保護のための最低基準であるから、厳格な要件のもとに特に適用が除外されることを定めた右労基法四一条や同法三二条の二の規定の趣旨を類推して、本件の場合に時間外労働、深夜労働に該当しないと解することは相当ではない。」と改める。

二  被控訴人の従事した時間外労働及び深夜労働について

1  前記引用認定したとおり、被控訴人の勤務すべき時間は午前九時から午後五時までと定められていたものであり、平成二年四月から同年一〇月までの被控訴人の出勤日数、時間外労働及び深夜労働の時間は原判決添付の別紙労働実態表の平成二年四月分から同年一〇月分に記載のとおりであり、平成三年一月及び二月の出勤日数、深夜労働の時間は同表の平成三年一月分及び同年二月分に記載のとおりであり、また、時間外労働の時間は同年一月については一〇時間、同年二月については二五・五時間である。

2  被控訴人の労働日数については、平成二年五月一五日には一五時から勤務しており、同年一〇月一四日は午前中のみの勤務であるから、賃金計算の上ではそれぞれ〇・五日として計算するのが妥当である。また、被控訴人に支給されるべき給与の計算については、前記引用の三の1で認定したとおり日額四一二〇円を基準とすべきである。そうすると、被控訴人に対する未払賃金は別紙「未払賃金の計算」に記載のとおり二三万一三八二円となる。

三  本訴の意図の不当性について

控訴人の属する日蓮正宗と創価学会との間では、平成二年末ころから対立が生じており、各地で葬儀や納骨に関して配布された文書等をめぐって訴訟が起きていたほか、創価学会の機関誌である聖教新聞の愛媛版または四国版には、平成四年一月から三月にかけて、控訴人代表者を批判し攻撃する記事が掲載されていた。被控訴人は平成四年当時愛媛県の創価学会において今治中央副指導長という立場にあり、右記事に掲載された座談会に出席し、発言したこともあった(<証拠・人証略>)。

しかし、右の事情から直ちに本訴の意図が控訴人を攻撃するための不当なものであるとは言い切れないのであって、被控訴人が控訴人の従業員として勤務していた期間の未払賃料を請求すること自体は非難されるべきことではなく、他に被控訴人の意図が不当であることを認めるに足りる証拠はない。

四  右のとおり、被控訴人の請求は、別紙「未払賃金の計算」に記載のとおり二三万一三八二円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな平成四年四月一八日から支払済みまで賃金支払いの確保等に関する法律第六条所定の年一四・六パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。付加金の支払については、本件における一切の事情を考慮し、その支払を命じないこととするのが相当である。

第五(ママ)結論

以上のとおり、結局原判決は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大石貢二 裁判官 馬渕勉 裁判官 重吉理美)

未払賃金の計算

<省略>

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